2014年9月に、電通は福井県大野市と協定を結び、人口減少対策プロジェクトを地方創生の一環として行っています。担当している電通関西支社・日下慶太が具体的な取り組みを2回にわたってご紹介します。

大野へかえろう

『大野へかえろう』の第2弾は 地元で活躍する大人たちの数名に高校で講演してもらいました。
そして、第3弾。「大野へかえろう 楽曲プロジェクト」です。
「大野へかえろう」というオリジナルソングを作って
それを卒業式に父母から生徒たちへ歌ってもらおうというもの。
というのもUターン施策についていろいろ企画していたときに、
親は「帰ってきてほしいと思っているけどなかなか言えない」
という事実に気づきました。
今から夢を求めて旅立とうとする子どもたちに言えないですよね。
でも、やっぱり最後には「帰ってきてほしい」と言うんだけど、
それが就職を決めるときのタイミングで、今さら言われてもどうしようもない。
あと、大人たちが声を大にして「帰ってきて」とお願いするのは新しいと思ったんです。
吉幾三さんの「俺ら東京さ行ぐだ」の逆ですね。

曲作りは音楽制作会社PIANOのプロデューサー冨永くんに相談しました。
伝えたいメッセージがはっきりしているから
詩を作ってから曲を作る方がいいだろうということで、
まずはぼくが歌詞を書きました。
では歌詞を読んでいただきましょう。

大野へかえろう

山が世界を切り離し
世界はこの町だけのよう
自然にあわせて時は過ぎ
人はゆっくり生きている

夕日が田んぼを照らしてる
里芋の葉が揺れている
小さな町の子どもたち
夢を求めて旅立つよ

大野へかえろう
言い出せないから歌にする

大野へかえろう
広い世界に出るといい
いつでも大野は待っているから

川が盆地を駆け巡り
すべてに水はしみわたる
雪が積もれば雪をかき
毎日変わらず生きてゆく

長い冬が揺らぎ出し
雪が水へ変わる頃
大人になりつつある君は
この町から巣立ってく

大野へかえろう
言い出せないから歌にする

大野へかえろう
広い世界に出るといい
いつでも大野は待っているから

夢を追い
友と出会い
恋をして
大きくなれ
時には
思い出してほしい
わたしたちがいることを

大野へかえろう

言い出せないから歌にする

大野へかえろう

広い世界に出るといい
いつでも大野は待っているから

ぼくが大野にもう50回ぐらい足を運び、
たくさんの大野人の話を聴いて、
思いをまとめて歌詞を書きました。
エゴは一切排し、自分が「これがおもしろいだろう」
みたいな企みの気持ちも捨てて
ただの媒介になったように、
人と自然の声に耳をすましました。
満足のいく歌詞が書けました。

大野へかえろう

作曲は、PIANOに所属する松司馬拓くんにお願いしました。
大野に来てもらって、大野を感じてメロディをつけてもらいました。

注文は、2つ。

  1. ずっと歌い繋いでもらえるような、スタンダードな曲にしてほしい。
  2. 明るい曲にしてほしい、旅立つ高校生たちの応援歌にしてほしい。
    この歌詞で曲が悲しいとあまりにしんみりしすぎるから、

曲のデモができあがました。完璧でした。
1回聴いただけで2歳の娘がずっと歌ってるし。
まわりのみんなもこれは泣くね、と。

いい曲はできた。あとは学校と親が気に入ってくれるかどうか。
ここで気に入らないって言われたらもう終りですもんね
おそるおそるプレゼンすると、学校とPTAも快諾してくれました。
すべてがはじめての試みで紆余曲折がありましたが
大野市役所のチームの仲間が粘り強く動いてくれて
なんとか実現にこぎつけました。
企画はいいけと実現は大変。
先のポスター展と同じです。

学校から生徒を通じてCDと歌詞を各家庭に配りました。
そして、2回の練習を設けました。
誰も来なかったらどうしようと不安でした。

大野へかえろう

でも、PTAのみなさんが率先して連れてきてくれて
それぞれ20名ほどが来てくれました。
とはいえ、来たのは父兄の1割ほど。
残り9割は果たして歌ってくれるのかな
そんな思いでいっぱいでした。
そして、本番。
あんまり言い過ぎるとなんなので、
映像を見てください。

本当に歌詞の通りでした、と何名かの親が言ってくれました。
孫が2年後に卒業するから今から練習しておくとおじいちゃんがCDを市役所に取りにきました。
吹奏楽部の生徒たちは、来年の卒業式で「大野へかえろう」を演奏したいと言ってくれています。
PTAではずっと歌い継いで行きたいと言ってくれました。
残るものができたと思います。

一般の大野市民、さらにはすでに大野から出て行った人々にも歌は届きました。
映像を次々とシェアしてくれて、「私の育った大野っていいでしょ」と、
これまで伝えたくても伝えにくかったことが映像がきっかけで言いやすくなったようです。
歌が、映像が、地元の誇りを深めるいい機会になっている。それは本当にうれしいことです。

大野へかえろう
ポスター展に参加した生徒と店主とスタッフたち

「大野へかえろう」の本当の効果は、
大野に戻って来る若者が増えるということ。
結果が出るのは何年も先にはなります。
ぼくらがやったことは感動を呼び起こしたけど、
成功なのかどうかはわからない。
ただ、ポスターを作った学生たちが
ポスター展で知り合った地元でがんばっている大人たちと
楽しそうに混ざりあっているのを見た時、
やってきたことは間違ってはいないなと思いました。
こういうことをこつこつ続けると、
きっと何人かが大野の町に残ったり、戻ってきたりして、
この町を引っ張っていく大人のひとりになるんだろうな。

「大野へかえろう」プロジェクト、来年も続きます。
あたたかく見守っていてください。
http://www.return-to-ono.jp

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