古平 陽子

古平 陽子
トランスフォーメーション・プロデュース局

デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)と一言で言っても、その範囲は広いですが、電通では、企業の事業変革・成長に向けた顧客(生活者)視点に関する領域を「マーケティングDX」と定義して、マーケティングを革新させていくための基盤化を集中的に支援しています。「マーケティングDX」において特に重要となるのは、①事業変革の背骨となる「新サービス開発」、②事業の成長を支援するための「マーケティング基盤開発」であると考えています。今回は、「新サービス開発」において電通が大切にしている視点について、お伝えします。

デジタルやオンラインの世界が身近になった今、
提供すべき顧客体験もサービスも、今までとは違う

コロナ禍により、デジタルやオンラインの世界が今まで以上に生活の中になじんできたという実感は、皆さんの中にもあるのではないでしょうか。私自身、数年前にはあり得なかった生活をしています。現金を持ち歩くことが減り、数種類の電子マネーを使い分けたり、移動中にスマートフォンからコーヒーを注文し、店頭で受け取って職場や自宅に向かったり。ネットバンキングの利用やネットスーパーの利用も定着しました。では、オンラインだけの生活になったかというと、そんなことはありません。その時の目的や気分によって最適な手段を使い分けています。しかし、オンラインの体験で味わった「サービス提供者と一対一でつながっている感覚」や「自分のために特別に対応してくれたという感覚」がオフラインの体験にはなく、寂しさや違和感を覚えるシーンがあります。
社会や生活者の暮らしが変化する中で、企業は社会や生活者とどのようにつながり、どのようなサービスを提供すべきなのか。電通では、【図表1】のように、企業と共に、未来のあるべき姿を考えながら、「顧客(生活者)体験」起点で、サービス開発していく支援を行っています。電通とサービス開発は一見、遠く感じるかもしれませんが、広告を生業としてきた電通だからこそ、どうしたら生活者や社会の要望を捉え、動かすことができるのかを徹底的に考え、顧客体験を設計し、具体的なサービス開発にまでつなげていくことができています。

【図表1】:顧客体験起点でのサービス開発
【図表1】:顧客体験起点でのサービス開発

データの活用によって、新しい体験を

デジタルの浸透により、企業はお客さまとより多くの接点を持つことができるようになりました。プロダクトを作りお客さまに購入してもらったら終わり、ではなく、購入してもらった後にも、お客さまと長くつながっていくことができるようになりました。また、顧客のデータ・情報に基づき、お客さまに寄り添ったサービスやパーソナライズサービスの提供もできるようになりました。

電通が取り組んだ、0→1のチャレンジ
~生体データ(腸内フローラ解析)を活用した、パーソナライズD2C事業~

ここでひとつ、事例をご紹介したいと思います。電通では、腸内フローラ解析のベンチャーであるサイキンソーと組んで、愛犬の腸内フローラを解析し、その結果に基づき愛犬に合ったフードをお届けするというサービス「Body Call」を、自社事業として展開しました。(事業化検証を終え、次なる展開に向け、サービスは停止中)
この事業は、社内で計画が承認されてから約6カ月後に、サービスの提供を開始しました。6カ月という短期間に行ったことは、腸内フローラの型判定モデル・菌の配合ルール・腸年齢といった独自指標の開発をはじめ、全バリューチェーンの構築にまで及びます。サービスを開始した際、各社から「なぜ、電通がこのような新しい取り組みをこの短期間で実現できたのか」と聞かれることがありました。その答えはシンプルで、電通がペット領域で事業をしてこなかったからだと考えています。今までのペット領域での慣習・発想にとらわれずにサービスを構想し、サービスを実現するためにはどうしたらよいかをシンプルに考え、実行することができた事例だと考えています。

【図表2】:生体データを活用した「Body Call」
【図表2】:生体データを活用した「Body Call」

「0→1」は、生活者・お客さまと共に実現できる

企業が「0→1」に挑戦をし、新しいサービスや事業を世の中に打ち出すまでは大変な道のりではありますが、成功させるには「生活者・お客さまの存在」が欠かせません。お客さまとつながり続け、お客さまの声・行動・欲求をデータとして把握し、サービスにクイックに生かしていく仕組みや基盤、お客さまがデータを提供したくなるサービス設計、信頼関係が築けるサービス設計が重要となります。 これが冒頭でお伝えした、マーケティングDX(マーケティング基盤の変革)において重要となることの二つ目、事業の成長を支援するための「マーケティング基盤開発」となります。「事業変革を後押しする支援」と「事業成長の支援」、その両方を一気通貫で行うことができるのが、電通のマーケティングDXのポイントとなります。

電通では、企業のマーケティング・ソリューションパートナーとして生活者のインサイトを捉え、企業の課題解決に取り組んできました。この知見を生かし、DX領域においても企業と生活者を結びつけたソリューションを提供し、より多くの企業のマーケティングDX推進を支援するとともに、顧客企業の事業変革と持続的な成長に貢献するパートナーであり続けたいと考えています。

【参考】

企業のDXの課題をスコアリングして、市場・業界内でのポジションを把握し、課題に沿ったソリューションを提供する「Dentsu Digital Transformation診断」(DX診断)のサービスも提供している。(リリースは、こちら

執筆

古平 陽子

トランスフォーメーション・プロデュース局
DXビジネス戦略部長

マーケティング・プランニング部門、事業開発部門を経て、現在、DX推進を通じた、企業の事業変革や新サービス開発のコンサルティング・運用業務に従事。
事業ビジョンの策定・戦略の策定から、生活者視点での顧客体験設計、PoC実施、サービス構築、運用設計、分析データの提供まで、企業の抱える課題を1ストップで提供するプロデュースを行う。