社会が大きく変化していくなかで、電通創業以来のビジネスフィールドである広告の世界もまた大きく変化しています。顧客企業の成長と社会課題の解決に貢献する存在であり続けるために、電通はAX(Advertising Transformation)を加速させております。ここでは電通がAXの一環として取り組むコンテンツソリューションの考え方をご紹介します。
コンテンツを起点としたソリューション
スポーツや、アニメ、音楽、ゲームなどのエンタテインメントに力を注いでいることは、世界の広告業界の中でも電通の誇るべきユニークネスです。電通では、こういった広義のコンテンツを起点としたソリューションを顧客企業に提供する取り組みをAX領域における重点テーマと位置づけ、2021年1月に社内各部門を横断したコンテンツソリューションプロジェクトを発足させました。
コンテンツソリューションの両輪は、的確なマッチングと卓越したクリエイティビティです。コンテンツの提供価値と顧客企業の企業課題・事業課題を分析しフォーカスを絞り込んでいく左脳的スキルと、そこからクリエイティブ・アイデアによって大きくジャンプする右脳的スキルが同時に求められます。
一言でコンテンツといっても実に多種多様です。「愛着がわく」「安心する」ものもあれば、「興奮する」「熱狂する」ものもあります。何十年も続くアニメもあれば、一夜限りの巨大なスポーツイベントもあります。また、顧客企業に提供可能なアセットもそれぞれに異なります。しかし異なるコンテンツであっても、その提供価値を同じフレームで分類・整理することは可能です。同時に、顧客企業の多種多様な企業課題・事業課題についても同じフレームで分類・整理することは可能であり、その両者をマッチングするノウハウは共通知化できます。コンテンツソリューションプロジェクトでは、スポーツ部門、コンテンツビジネス部門、メディア各部門の専門性に長けたメンバーが参加し、各部門のノウハウの共有・融合を進めています。例えば、スポーツ団体との取り組みから得たノウハウが出版社との取り組みに発展的に活かされ始めるなど、大きな手ごたえを感じています。
的確なマッチングによりフォーカスを絞った取り組みは、それぞれに適性のあるクリエイターが生み出すアイデアによって爆発的な効果を生むソリューションとしてアウトプットされます。コンテンツソリューションプロジェクトには、適切なスタッフをアサインできるクリエイティブ部門の精鋭が数多く参加しています。部門の垣根を越えた専門家同士のホットラインによって、優れたコンテンツソリューションを顧客企業に提供できる体制が整いつつあります。
コンテンツソリューションのビジネスモデルとは
電通には、自社の利益だけを追求することを良しとせず、「ともに成長する」という哲学があります。コンテンツソリューションは、コンテンツ企業、メディア企業といったパートナーの成長と、顧客企業の成長に同時にコミットする、いわば“三方良し”の実現を目指す取り組みです。
コンテンツソリューションプロジェクトが理想としてかかげるビジネスモデルを説明します。起点はコンテンツ企業、メディア企業といった電通のパートナーのBXやDXによる成長へのコミットメントです。例えば、老舗出版社が発行する歴史ある雑誌によるデジタルサービスの開発、スポーツ中継の新しい楽しみ方の開発、アニメ作品とファンあるいはファン同士の絆がより深まるファンクラブの開発。そういった取り組みにより成長したパートナーの新しい資産に優れたクリエイティブ・アイデアを掛け合わせ、高度化したソリューションとして顧客企業に提供します。これがコンテンツソリューションの“三方良し”の構造です。時には、パートナーに新しい事業を提案すると同時に、その事業に対して電通が資本や社員といったアセットを投入して事業参画していくケースもあります。これは電通自身のBXでもあり、パートナーと文字通り混然一体となった電通らしいアプローチだと言えます。
2018年に設立したオンライン向け動画の企画・制作・プロデュース会社「NewsPicks Studios」は、電通と株式会社ニューズピックスが共同出資で展開する事業であり、“三方良し”の好事例です。
「NewsPicks Studios」は、「経済を、もっとおもしろく。」を掲げ2013年にスタートしたソーシャル経済メディア「NewsPicks」の更なる成長を期した事業です。同社が活字メディアから動画を含めた統合メディアへと変革するBX領域における支援であり、同時に電通自身が主体的なメディア事業に乗り出すという自身のBXへの挑戦でもあります。
「NewsPicks Studios」のサービスは、デジタルネイティブとも呼ばれるZ世代を含めた幅広い視聴者と多くの顧客企業の支持を得て、事業は順調に推移しています。
すでに多くの顧客企業が継続してNews Picks Studiosをパートナーとして選んでくださっていますが、これをAX領域での貢献の証左だと理解し、引き続きコンテンツとサービスの品質向上に邁進しています。
社会的価値の共創関係
~Give&TakeからCo-Creationへ~
“三方良し”のビジネスモデルの実践に際しては、時にパートナーと顧客企業のどちらにプライオリティを置いて仕事をするか、といったことが議論になることもあります。例えば、全体を100と置いた際に、60:40なのか、40:60なのかという議論です。しかし我々電通は、合計を150にあるいは200にしてこそ、その存在意義があります。
全体で100を超えていくために、電通は常に社会と生活者を見つめながら、パートナーと顧客企業とを社会的な価値の共創関係に導きます。いうなればパートナーと顧客企業をGive&Takeの関係性からCo-Creationの関係性へと導く。これこそがコンテンツソリューションの醍醐味であり、電通の社会的使命のひとつだと考えています。
電通が、文化や市場そのものを成長することにコミットしているのがeスポーツです。国籍、性別、年齢にかかわらず、時には障がいの有無すら乗り越えて、誰もが対等に戦えるeスポーツは、ダイバーシティの象徴であり、電通はこの文化と市場の発展に社会的な使命感と決意を持って取り組んでいます。
電通がテレビ東京ほか多くのパートナーや顧客企業とともに作り上げた大会が、高校日本一を決める「STAGE:0」です。日本のeスポーツ界の将来を担う子どもたちの目標となり、家族や学校関係者の応援の輪を作る機会として“eスポーツ界の甲子園”を目指しています。初めて開催された2019年大会のエントリー総数は全1475校、1780チーム、4716名。その後は毎年エントリー数が増え、3年目となる2021年大会では全1960校、2234チーム、5675名がエントリーし、国内最大の高校eスポーツ大会となっています。過去に参加した高校生からはプロチームへの所属が決まった選手や日本代表に選ばれた選手も生まれ、多くのメディアに取り上げられることでeスポーツ全体の認知度・注目度を高める結果になりました。
「STAGE:0」は、日本コカ・コーラ株式会社を筆頭とする多くの顧客企業からZ世代とのエンゲージメント強化に資するAXの機会として高い評価を得ると同時に、大会と顧客企業とが中長期的な視野で、日本のeスポーツの発展と「高校生たちの青春を支える」という社会的価値を共創する関係の構築に成功した事例と言えます。
電通のAXに、そして進化するコンテンツソリューションに、ぜひご期待ください。
執筆
新居 祐介
コンテンツビジネス・デザイン・センター チーフ・プロデューサー
コンテンツ・ソリューション・ネットワーク オーガナイザー
テレビ部門、メディア起点のソリューション・プランニング部門、コンテンツ投資/コンテンツ・プロデュース部門を経て現職。「コンテンツ起点のソリューションによる顧客企業の課題解決」と「顧客企業とのアライアンスによるコンテンツのグロース支援」のダブルミッションに取り組む。