山原 新悟

山原 新悟
第2ビジネス・トランスフォーメーション局 局長

経営者の方々からご相談いただく中で、特に課題に挙げられることが多いものが、「自社の中から新たな価値が生まれない、大きく育たない」というものです。

自社には優秀な人財も多い、その業界では圧倒的な知財・知見とネットワークも保有している、新しいケイパビリティを持つ人財も積極的に採用している。
だが、業界をひっくり返すような「ディスラプター」は、なぜか外からやってくる。
なぜインハウスから先に起こせなかったのか。

我々電通のBX(ビジネス・トランスフォーメーション)の組織が向き合うのは、企業変革・事業変革の多岐にわたる領域の課題です。今回はその中でも特に、この「新たな価値を生み出し続ける組織に変革する」という課題へのアプローチに、フォーカスしたいと思います。

変革の「2周目」の悩みを抱える企業が増えている。

ここ数年、変革を進めてきた企業からよく伺うご相談があります。
「パーパスは作ったが、社員の変化が思うように進んでいない」
「新事業の種は生まれているが、太い柱に育っていない」
「DXを進めて仕事の効率化は進んだものの、本業の稼ぐ力が変わっていない」など、
想定していた成長につながっていないと悩む経営者は多くいらっしゃいます。

我々はこれを、変革の2周目の悩み、と呼んでいます。
変革を進めてこられた経営者が、本質的な成長につなげる上での新たな課題に直面しているのです。

興味深い調査結果があります。
企業内で、変革に主体的に向き合う社員は経営が思うよりも少ないというものです。電通が2022年に行った、企業の変革に対する従業員意識調査では、「変革に積極的」という層は全体の約2割、「変革に消極的についていく」というフォロワー層が約3割で、後の5割はどちらかというと変革に興味がない、むしろ後ろ向きだという結果が出ています。その理由の上位には「ゴールに向けた具体的な道筋が分からない」という声があり、「自分は変えられてしまう側ではないか」と漠然と不安が挙がってきます。

ゴールは示されていても、浸透や共感には至っていない。これでは、経営層がどれだけ旗を振っても、実態としての企業変革は現場で止まってしまう、または元に戻る引力の方が強くなってしまいます。

経営層のことばは、「ワクワク」から「覚悟」へ。

そんな中、経営層の方々がおっしゃる言葉も変わってきたと感じています。
コロナ禍前は業界を問わず、「ワクワク感のある事業を創出したい」など、「ワクワク」という言葉を耳にする機会が多くありました。いまはそれに加えて、「覚悟を持ってどう生み出すか」など「覚悟」という言葉をおっしゃる経営者が増えています。

コロナ禍前はパーパス・アイデンティティを拡張して再定義し、本業と非連続的な領域で大胆に新事業をつくっていこうという方針が立てられる傾向にありました。それが「ワクワク」という言葉に表されていたと思います。それが一巡したいま、「新規事業の種はあるが、太い柱に育っていない」という課題に直面する日本企業が増えました。

その結果、飛び地の新規事業よりも、もともと持っている自社の強みやR&Dの種を再評価し、既存事業の隣接領域で骨太な事業の開発に回帰する傾向が見られます。同時に、企業文化が変わらなければ、新しい事業も柱に育っていかないという意識が「覚悟」という言葉に表れていると思います。

組織の熱量を高めるために

それでは、組織の熱量を高め、変革を実現するにはどうすればよいのでしょうか。

企業が生み出す価値が変わらなければ、企業文化は進化しません。社内のあらゆる仕組みが変わらなければ、新たな事業は実現しません。サイロ化しがちな社内を繋ぎながら、事業サイドと企業基盤サイドをリンクさせながら、統合的に変革を推進することが重要になります。

地道なアプローチに見えますが、まずは従業員のインサイトを丁寧に把握し、それを元に、変革のコンセプトとアーキテクチャ(設計図)を組み立て、アクションプランを策定します。

誰もが覚えやすく語りやすいコンセプトと戦略を策定することも重要なことです。そして変革のプロセスに従業員を積極的に巻き込み、社内にうねりを生み出す。社内に議論が起こることが大切なのです。
変革のコンセプトとメッセージには、自社のDNAを見つめ直し、組み込むことも大切です。変わるべきことだけではなく、自社にとって変わらず大切なことも伝える。
変革のストーリーとプロセスへの共感をきちんと設計しながら、アクションとコミュニケーションを途絶えさせず生み出し続けることで、変革に向けた熱量が保たれていきます。

変革をホリスティックに推進する、電通のアプローチ

電通はこのように、企業変革・事業変革の課題をホリスティック(全体論的)に捉え、ご支援する「Holistic Transformation Model」を構築し、各領域のプロフェッショナルを繋ぎながら、企業に伴走しています。

事業創造やブランドの価値向上を通じて、顧客に提供する価値を高めること。そして、その企業で働く意義を高め、成長できる仕組みを構築し、エンゲージメントを向上させて従業員満足度を高めること。
その外と内の両方の変革を統合的に推進することが、組織の熱量を高め、成長を実現することに繋がっていきます。

株式会社電通には現在、300人を大きく超えるBX/DXの専門人材がいます(2024年4月時点)。各領域のプロフェッショナルが、そのケイパビリティを掛け合わせながら、数多くの企業の変革に日々向き合っています。

企業変革、事業変革といった領域は、大胆な発想で戦略や勝ち筋をつくり出すクリエイティビティと、それを実現するプロデュース力が特に重要となります。そして、実際に人が動く仕組みをつくり出せること。これらは電通が長年にわたって組織的に培ってきた強みの一つです。これがBX/DXの領域でもユニークな強みとなっています。

執筆

山原 新悟

山原 新悟

第2ビジネス・トランスフォーメーション局 局長

企業の経営層に対して、中期経営戦略の策定、企業変革プランの策定と実行、新規事業創出支援など、幅広くBX(Business Transformation)領域のアドバイザリーを務める。
また2022年に都市開発、地域創生を手掛ける電通グループ横断組織「都市の未来デザインユニット」を立ち上げ、運営。