「インハウスから新たな価値創造が起こせていない」「これまでコアバリューだと思ってきたことが、これからは通用しなくなる」といった、事業変革(以下、BX)の背景にある危機感にも似た課題意識は、業界や業種を超え各社共通のものと言えるのではないでしょうか。一方、従来培ってきた“当たり前”の景色を、「何故、何のために、どう塗り替えるのか」というBXの目的や戦略においては、個社事業に即した必然性と分かりやすいストーリーが求められているのも、またしかりです。
イノベーションのコモディティ化が進んだ昨今、BXの背景にある課題が統合化・汎用化する一方、個社が抱える“解くべき問いとその答え”は個別深化していくという一見矛盾するように見える構造が、BXを難易度の高い経営アジェンダにしている大きな理由の一つではないでしょうか。
BXの“伴走者”に求められるチカラ
例えば、個別性の高い課題解決を行ってきた組織が、技術で差が出にくい領域でより競争優位性の高いモジュールを開発し続けても、圧倒的なインパクトやコストメリットを伴う場合を除き、市場や生活者からの評価や新たな期待は得難いでしょう。従来の勝ちパターンに執着せず、複数モジュールを組み合わせ新たな用途や潜在需要を創出するなど、顧客企業ですら気付かなかった“インハウスの強み”を見いだし、“実行可能なモデル”に組み上げていくチカラがBXの伴走者に求められていることを、数多くのプロジェクトを通じて実感しています。
新たな意味づけをしながら市場機会を拡張
「自分たちだけでは技術・製品・サービスの出口を描き切れないと感じていたが、我々が気付けなかった“強み”を見いだし、新たな市場機会に“意味づけ”してくれたことで、改めて意思決定できた。背中を押してもらった気持ちだ」という言葉を、とある企業の経営者の方から頂いたことがあります。
事業の意思決定者とのプロジェクトを通じ、顧客にとっての“意味”と、市場や生活者にとっての“意味”を高次元で両立させ、事業変革そのものを加速させていくことこそ、これまで培ってきた知見を生かした電通ならではのアプローチであり、我々にとっての“解くべき問い”でもあると感じています。
機会拡張を起点に、市場創造視点で事業成長をプロデュース
描いた市場機会が革新的で、事業コンセプトや顧客体験が先駆的であるほど、具体化や事業成長における不確実性は高くなっていきます。しかし、ここで立ち止まっては、「インハウスから新たな価値創造が起こせていない」「これまでコアバリューだと思ってきたことが、これからは通用しなくなる」という“いつもの壁”にぶつかるだけで、顧客事業の非連続な成長を実現することはできません。
市場を実験場にしない、実行可能性を高めるアプローチ
そこで我々は、マーケティングやコミュニケーション領域で培ってきた知見を最大限活用し、事業コンセプトの具現化に必要な項目(チャネルにおける提供価値、製品・サービスのプロトタイプ、オンオフ統合したUX・UI、生活者視点のコンテクストやコミュニケーションなど)を疑似的な統合体験として再現することで、市場を実験場にしなくても「サービスを使う理由」「購入してもよいポイント」といった事業の成否に直結する要因と、そこに潜む不確実性を抽出できるプロセスを構築しています。
この実証的なプロセスを繰り返しながら「生活者が動く」理由を組み込んだ事業の成長基盤をプロデュースしていくことで、後工程の“手戻り”を減らした市場創造に至る伴走を実現していくのです。
disruptorとして新たな市場機会を拡げ、producerとして実行可能性にこだわり、非連続な成長を描くプロフェッショナル集団
電通のBX領域における挑戦は、今この瞬間も、進化を続けています。描いた構想を実行可能な状態にするため、従来の商習慣を打破する新事業スキームをプロトタイプしたり、新たなコミュニティー基盤の実装を目指した実証実験を手掛けたり、顧客企業同士のアライアンスによる新たな制度設計に挑んだりと、様々な業界やテーマでプロジェクトを推進しています。disruptorとして考え抜き、producerとして徹底的に実行可能性を高めた先に、顧客企業の成長があると信じて。そして、顧客企業の成長と新市場の創造を通じて、社会の持続的成長にコミットするプロフェッショナル集団でありたいと考えています。
執筆
渕 暁彦
BXデザイン局
BXプロデュース1部 部長
BXディレクター
BX領域を中心とした事業コンサルティング及びプロデュース業務に従事。
BXアーキテクチャの設計、事業戦略・実行プランの策定などのコンサルティングと、価値創造プロセスの改革、業務基盤・事業推進スキーム構築などのプロデュースを行う。