谷澤 正文

谷澤 正文
第1統合ソリューション局

三井 知佳

三井 知佳
第1統合ソリューション局

CXやDXにありがちな“手段の目的化”

近年、コロナ禍の影響もあってCX(顧客体験)とDXが加速しています。一方、クライアントの皆さまからは「顧客体験ってそもそも何?」「DXをやりたいけれど、データを何に使ったらいいか分からない」といったお悩みをよく聞きます。

これらのお悩みの根本的課題は「手段の目的化」にあると考えます。例えば、「CX推進のためにCRM (顧客管理)ツールを入れよう。データを活用しよう」というのは、手段が目的化してしまっています。それよりもまず、“CXの本質”を考える必要があるのです。

ここで、“CXの本質”に取り組んだ成功例として、カネボウ化粧品様のブランド「KATE(ケイト)」の事例を紹介します。

KATEは「NO MORE RULES.」(=なりたい自分は自分でつくる)というブランドパーパスを掲げ、「メイクの常識やKATEがこれまでやってきたことさえも疑い、メイクだけでなく、生き方も自己表現の一つとして後押しする」ことを目指しています。

このパーパスを起点に、コロナ禍でメイク機会が減る中でも、「マスクもメイク」というコンセプトで生まれた小顔マスクや、マスクにつかないリップなど、ヒット商品を続々と開発。また、店頭での接点が減る中で、公式LINEで「なりたい自分をルールに捉われず追求する」ための骨格診断をリリースしました。NO MORE RULES.を体現する著名人へのインタビューをウェブマガジンで発信したり、従業員自ら出演し常識破りな商品について語る公式YouTubeチャンネルを開設するなど、顧客一人一人の自由な自己表現を応援するCXを創出しています。

CX変革の鍵となる4つの視点

このKATEの事例から、CX変革の鍵となる4つの視点を構造化しました。

①WHO→PEOPLE:主役のLIFE
KATEの場合:自分らしさ追求層

Customerは顧客である前に一人の人間です。その人の人生のジャーニーに商品やサービスがどう役立ち、どこまでその人の生活や人生を豊かにすることができるのかを考えるのが、CXの最初の一歩です。

②WHY→PURPOSE:ブランドの再定義
KATEの場合:NO MORE RULES.

「ブランドパーパスとは、ブランドの究極の目的であり、存在意義そのものです。これを明確に設定することで、ブランドに関わるすべてが“手段化”され、最初に述べた“手段の目的化”という課題を解消できます」(谷澤)

③WHAT→SUCCESS:顧客価値イノベーション
KATEの場合:高揚感(イノベーション商品/コンテンツ)

カスタマーサクセスは、ブランド側の“主人公(=顧客)の人生を輝かせる”という思いと行動から生まれるもの。KATEはメイクの概念を超えたパーパスを掲げることで、新しい商品やコンテンツを通して顧客の「なりたい自分に何でもなれる 」という高揚感を提供しています。

④HOW→Data&Tech:画期的工夫
KATEの場合:コロナ禍でもLINEでつながる

どうやってパーパスやカスタマーサクセスを実現するのか。それこそがデータやテクノロジーが貢献する領域ですが、一方で最も“手段の目的化”が起こりやすい部分でもあります。

そこで私たちは、パーパスと手段(データ&テクノロジー)を結び付けてCX全体を機能させるための概念として「Customer Intelligence」(カスタマーインテリジェンス)を提唱しています。

カスタマーインテリジェンスを起点とした、CX戦略フレームワーク

カスタマーインテリジェンスとは、顧客のため、パーパス/カスタマーサクセスのために考え尽くされた情報です。Segmentation、Profiling、Insight、Journey、Momentの五つの視点でデータを収集・分析することで、ブランド独自のCX改革のチャンス創出や課題の発見を行うことができます。

こちらがCX戦略フレームワークの全体像です。

テクノロジーの導入だけでは効率改善のみで、そのブランドらしい差別化されたCXは不可能なので、まず、ブランドパーパスやカスタマーサクセスなどの究極の目的(CXデザイン)を設計します。

しかしそれだけでは、まだ“絵に描いた餅”の域を出ません。CX変革を通じてビジネス成果につなげるためには、数ある実行手段の中から最適なテクノロジー(CXアーキテクト)を選び、実装する必要があります。

CXデザインとCXアーキテクトを融合させ、CXを有機的に機能させるのが、「カスタマーインテリジェンス」という顧客データの知見群です。カスタマーインテリジェンスのデータを活用した、ミクロPDCA視点で、CXアーキテクトを改善したり、もう少し大きな視点でのマクロPDCAで、CXデザインそのものの方針を見直したりして、CX体験をより良くしていきます。

カスタマーインテリジェンス=想像力で、ブランド独自のCXを創出する

もう一度、KATEの事例を見てみましょう。通常のブランドの場合、CRMを導入する際にクロスセル/アップセルを目的にしがちです。しかし、KATEの場合は、CRM導入にもカスタマーインテリジェンスを反映し、「顧客に自分らしさを発見してもらうこと」という目的を掲げています。

そうなると、CRMで集めるべきデータは購買データだけではありません。コンテンツ接触データや「自分らしさを実現した投稿データ」も必要ですし、購入頻度よりも「なりたい自分に何回なれたか?の頻度」が重要指標になるのです。結果として、KATEのCRMは「売りつけるCRM」ではなく、「体験を深めるCRM」としての役割を担うようになり、当然ながら顧客体験も変化します。

このように、パーパス/サクセスの実現に向けて顧客のことを思い、想像することで、本当に入手すべきデータや活用すべきテクノロジーは見えてきます。そこにブランド独自のアイデアが生まれ、CXもブランド独自のものへと変革するのです。これこそが、CXの本質だと考えます。

人生100年時代、みんなが生き方そのものを考え直している今、ブランドはパーパスやカスタマーサクセスを考え直す必要があります。その時に大切なのが、カスタマーインテリジェンス、すなわち想像力です。

顧客一人一人の人生の輝きを想像し、その実現を追求し続けることが、ブランドへのロイヤルティやLTV (顧客生涯価値)向上につながるのではないでしょうか。カスタマーインテリジェンスが、ブランド独自のCX変革、そして持続的成長に向けたヒントになれば幸いです。

執筆

谷澤 正文

谷澤 正文

第1統合ソリューション局
シニア・ソリューション・ディレクター

さまざまなクライアントのCEO/CMOプロジェクトに参画し、経営・事業戦略やブランドコンサルティング、最先端のデータベースマーケティングから、統合キャンペーンプランニングまで、戦略から実施の両輪をこなす。最近では、デジタル&ソーシャル時代のブランド育成に注力し「データ、アイデア、テクノロジー、ストーリー」を武器に、ブランド/事業/顧客を大きく成長させていく顧客体験(CX)マーケティングに従事。

三井 知佳

三井 知佳

第1統合ソリューション局
マーケティングストラテジスト

コミュニケーションに留まらない、クライアントのマーケティング/事業の機会発見と課題設定、LTV最大化を目的としたブランド活動の再構築、顧客体験設計と実装、商品/サービス開発などの戦略プランニング業務に従事。答えのない時代の人のモヤモヤやジレンマを言語化し、カスタマーサクセス/LTVに繋がる仕組みを構想するのが得意。