山原 新悟

山原 新悟
BXデザイン局
エグゼクティブ・ディレクター

日本の大企業の経営者の方々と議論させていただく中で、特に課題に挙げられることが多いものが、
「自社から0→1の新たな価値が生まれて、育たない」
というものです。

自社には優秀な人材も多いはず、その業界では圧倒的な知財・知見とネットワークも保有している、デジタルに強い人材も採用したしコンサルも入れている。
だが、業界をひっくり返すような事業は、必ず外からやってくる。なぜインハウスから先に起こせなかったのか。

我々電通ビジネスデザインスクエア(BDS)のチームが向き合うのは、企業変革の多岐にわたる領域の課題です。今回はその中でも特に、この「インハウスで新しい顧客価値を生み出し続ける組織になる」という課題に、どうアプローチするかという点にフォーカスしたいと思います。

実は、新規事業のアイディア自体は、飽和している

新規事業のアイディアそのものが足りない、とおっしゃる経営者の方は、今や少なくなっている実感があります。むしろ、「多すぎる」と。

多くの企業が、数年前から、非連続な新規事業を生み出す経営方針を出され、社内の各部署が一斉に0→1のアクションに取り組まれてきました。
新規事業開発部の立ち上げ、C V C(Corporate Venture Capital)の設立、外部とのオープンイノベーションの推進、専門人材の中途採用、社内スタートアップコンテストの実施、ビジネスモデル研修……。
上記のような数多くの取り組みが実施されてきています。アイデアはそのあらゆる場で十分に生まれています。気がつけばむしろ、それぞれのプロジェクトで、同じような新規事業アイデアの実現に向けた取り組みが個別に行われている状態です。

自社がどの方向で大きな0→1のうねりを起こすべきなのか、そのために社内のさまざまな動きをどう統合するか。そしてその統合したアイデアをどういち早く形にするか。今その段階で苦心されている企業が多いと思います。

新たな価値創造を妨げる要因の多くは、
企業の内部にある。

経営陣が方針と、新たな制度と、資金まで用意している。そしてアイデア自体も数多くある。
では、なぜそれが大きなうねりとなって進み始めないのでしょうか。

そこを掘り下げていくと、企業体質そのものに行き当たります。

  • 「既存ビジネスを壊さない」前提でしか、考えられない。特に本業の毀損は許されない
  • 期待値が大きく、自社の競争優位性を証明できないと前に進めない
  • これまで構築してきた、本業の競争優位となっているシステムが、逆に足枷になる
  • アイデア開発以降、実行と運用フェーズに優秀な人材を留めておけない

など、企業文化、上申プロセス、組織間の力学、簡単には変えられない人事システムの課題など、現在競争優位を作り上げているさまざまな強固な企業構造・文化の壁に行き当たります。

単に別組織にしてそこだけルールを変えたり、新会社を作ってそこに主力部隊を移管すればいい、ということではありません。そこにも乗り越えるべき壁や、整理すべき事項が数多く存在します。

まずは企業に存在するバイアス(慣習や固定観念)にとらわれず、ルートプロブレムまで掘り下げて、課題を構造化することです。
実は、非連続な価値を生み出すための多くの「壁」が、今は自社の競争優位の源泉となっているので、企業の方々は「課題」として認識すらされていないことが多くあります。むしろ「強み」であると。その認知のギャップを明らかにしながら、本当の「壁」を見つけることが、セッションの重要なステップになります。

Sustainabilityと企業成長を両立させる、
新たな局面へ

さらに、現在は自社の成長だけを考えればいい時代ではなくなっています。Sustainabilityに貢献することはもはや企業市民として必須条件になっています。さまざまな基準のスコアを上げることはもちろん重要ですが、企業成長とSustainabilityをどう両立するかという大戦略、そして、その企業ならではの貢献をどう創り出すかというアクションアイデアがまさに今、求められています。

Planetary Boundary(地球環境の限界値)を意識しながらいかに企業活動を行うか、そしてこのスコアを下げることにいかに貢献するか。そうした企業姿勢自体が生活者からの選択の重要な指標になってくる、大きな変革の局面にあります。

Planetary Boundary(地球環境の限界値)

大切なのは、Purpose/Visionの解像度を上げた、Architecture(変革の設計図)である。

そうした事業創造と企業変革、そしてSustainabilityへの貢献を成し遂げるために重要なのが、未来に向けて自社の再規定をするPurposeです。

ただ、しばしば、経営が定めたPurposeを「どう解釈し、どう実現するか」は、事業部長の方々に委ねられ、さらに現場、現場へと解釈が委ねられていく状況が見受けられます。
これにより、ともすれば各部門がバラバラに解釈し、部門の事情に引き寄せられすぎる可能性があります。それを防ぐために、経営のレイヤーでPurposeの解像度を高めた、Architecture(変革の設計図)を描いておくことが重要です。

Sustainabilityへの貢献、企業の非連続な成長、それを叶える企業内部の変革、それを表現するブランド戦略、その全体をどういう構造とプロセスで成し遂げるのか、それらをまとめたものがArchitectureです。

さまざまな作用・反作用、複雑な因果関係の中で入り組んでいる現在の事業構造を、どうDisruptし、どういう構造図に変えるべきか。その「shift」が明確に示されたArchitectureをベースに、各事業部門の現場とすり合わせ、着実に実現に進めることが重要になります。

Architecture(変革の設計図)

“Creative beyond Logic”

Sustainabilityへの貢献、既存事業の成長、新規事業の創出、企業内部変革……この複雑系を解決するために、我々のチームが重視している要素は「Creative Beyond Logic」です。

情報を集め、課題を抽出し、構造化する。新事業の市場性検証や既存事業へのインパクトを精緻にシミュレーションする。そうした戦略コンサルティングに必要なロジックは当然重要です。

ですが、地球にも、社会にも、生活者にも、そして自社にもいい影響を与えるアクションは、ロジックだけで詰めても生まれるものではありません。大きく発想を転換し、生み出す創造力が必要になります。我々は、しっかり解くべき問いを抽出し、解を見出し、確実に実現に向けて伴走する。そういう変革のパートナーのチームだと自負しています。

執筆

山原 新悟

山原 新悟

BXデザイン局
エグゼクティブ・ディレクター

企業の経営層に対して、中期経営戦略の策定、企業変革プランの策定と実行、新規事業創出支援など、幅広くBX(Business Transformation)領域のアドバイザリーを務める。これまでグローバル食品メーカー/グローバル精密機器メーカー/日系大手IT企業/アイウエアSPA企業など数多くの事業創造・企業変革のプロジェクトをリード。また都市開発、地域創生を手掛ける電通グループ横断組織「都市の未来デザインユニット」を運営。