
AIコピーライターAICOのこれまで。
AICOは、AIを活用し広告コピーを制作する電通独自のシステムです。
2015年末から静岡大学 狩野研究室との共同で開発プロジェクトを開始。その後人とAIとの共創の在り方を探りながら試作・検証を繰り返し、2017年にようやく初代AICOをリリースしました。初代AICOは、いくつもの広告制作で活用された実績を残しています。2019年には、その年の優れたキャッチコピーが掲載されるTCC(東京コピーライターズクラブ)年鑑に、コピーライターとしてAICOが掲載されました。
AIコピーライターと聞くと、AIにすべて任せて人間が楽をするというイメージを思い浮かべるかもしれません。しかし、私たちは、AIコピーライターAICOを人間と置き換えることを目的としているのではありません。人間とAIの強みを掛け合わせることで、電通のクリエイターやプランナーの創造性をより拡張し、高めていくことを目指しています。
AICOからAICO2へ。AIコピーライターはどう進化した?
初代AICOは、いわゆるディープラーニングがベースとなっており、大量のキャッチコピーのパターンを学習し、新たな入力(キーワード)に合わせてコピー案を出力するというものでした。表現手法が学習データのみに依存していたため、コピー表現のバリエーションが限られてしまうという課題がありました。
AICO2の開発背景としては、大規模言語モデルの普及があります。近年、ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)による生成AIを活用した広告コピー制作も一般的に行われるようになってきています。しかし「心の琴線に響くコピー」を生み出すためには、生成AIをそのまま利用するのでは不十分で、コピーライターの知恵や経験によるさらなる進化が必要です。コピーライターの本質は、たくさんのコピーを知っているということではなく、良いコピーの「作り方」を知っていることにあると考え、電通のコピーライターが長年培ってきた思考プロセスによってFine-TuningしたGPT-3.5Turboモデルを実装しました。
Fine-Tuning とは、「ある教師データセットを使って事前学習した訓練済みモデルの一部もしくは全体を、別の教師データセットを使って再トレーニングすること」と一般に説明されます。わかりやすく言うと、GPTの考え方を変える、思考回路を特定の方向にチューニングするということです。Fine-Tuning するために、AICO2には、コピーライターが考えたコピーだけではなく、そのコピーを書いた意図や思考プロセスも同時に学習をさせることが必要でした。
こうして3年弱の検証・開発期間を経てAICO2は、電通のコピーライターの思考回路を学習させた「創造的思考モデル」を搭載するAIコピーライターとして、ようやく実用化へたどり着きました。AICO2を育てるため、思考回路を学習する過程では、電通の社員の集合知を反映させています。それは、特定の企業のためのキャッチコピーではなく、電通の社内用に発案されたもの、例えば、研修課題として提出されたコピーや、社内のDEI啓発を目的とした取り組みである人権スローガン※の応募作、SDGsスローガンの応募作などです。
※ | 1988年より毎年、dentsu Japanの社員と家族を対象に、「人権スローガン」の募集を行っています。広告コピーのように自由なスタイルで書かれたショートメッセージが集まる、当社ならではのユニークな活動です。毎年5000件近い応募があります。 |
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WhatとHowでコピーを生成
AICO2は、現在2通りのプロセスでキャッチコピーを生成することができます。商品の訴求点・魅力探しから始める場合は「What&How生成」機能を使います。商品名や解決したい課題などを入力すると、商品名や解決したい課題と、その課題の詳細な情報を入力すると、伝えたいこと(What to Say)の候補を提案してくれます。その中から良いと思うものを選択して「Howを生成」に進むと、様々なキャッチコピー(How to Say)を提案してくれます。
一方、すでにマーケティング戦略があり、伝えたいことが明確な場合には、「Howを生成」機能を使用します。伝えたいこと(What to say)を入力すると、キャッチコピー(How to Say)を提案してくれます。

AI×人の協働で、クリエイターの思考力も成長
AICO2はこうして様々なキャッチコピーを提案してくれるのですが、生成してもらったコピーをそのまま使って人間がなにもしない、ということではありません。人間とAIの強みを掛け合わせることで、電通のクリエイターやプランナーの創造性をさらに拡張し、高めていくことを目指しています。
AICO2に対し、最初にWhatとHowのオリエンテーションをするのは人間の作業です。このWhatとHowの設定によってAICO2が生成する結果が大きく変わってきます。つまり、AICO2でより確度高く良質なアイデアを生み出していくために、人間側も良いオリエンテーションをする「クリエイティブディレクター的な思考力」が強化されていくのです。
AICO2を実際に活用している社内のコピーライターからは、
「使っている自分が深堀されている感じがする。」
「”Whatとは何か”、”何を伝えたいのか”“何を課題とするのか”という、普段自分だけの作業では“何となく”やっていることを、”何となく”でやるものではない、と突きつけられている気がする」
などという声もあがっています。
そして、出てきたコピーを選んだり、アレンジしたりしていくのももちろん人間の作業です。AICO2が生成したコピーには、出力するコピーを自己採点して算出する「自信度」という指標がついてくるのですが、仮に自信度が低い案でも「これもよい切り口ではないか」と気づき、拾い上げることができるのも、人間の思考ならではです。AICO2が生成した結果をいかに活かし、よいクリエイティブにしていくかは、すべて人間側の技量にかかっています。このように、クリエイターも考えながら、AICOにも考えさせながら行う創造過程は、クリエイターの思考力を成長させる機会ともなります。

AICO2のこれからは?
このようにAICO2は、社内のクリエイターやプランナーの考える作業をアシストするために開発されたため、そのまま社外に売り出すためのプロダクトではありません。しかしAICO2を活用してクライアント企業に利用いただけるサービス開発はすでに始めています。2024年10月には、AICO2を活用し手軽に音声広告を制作できる「AICO AUDIO AD PROJECT(アイコ オーディオ アド プロジェクト)」を一般企業向けにサービス開始しました。発表後、クライアント企業からの反響が大きく、多数のお問い合わせをいただいています。
AICO2はこれで完成形ではありません。現在は、WhatとHowからキャッチコピーを生成していますが、より印象に残るキャッチコピーを作り出すうえで必要な機能をさらに追加すべく、開発を続けています。
今後もAICO2は、クリエイターやプランナーたちとともに、電通のクリエイティビティ拡張のために、成長を続けていきます。