2023年、北海道北広島市に開業を予定している「北海道ボールパークFビレッジ(以下、Fビレッジ)」。このFビレッジは、北海道日本ハムファイターズの“新スタジアム”誕生と同時に、周辺エリアの都市開発も行うなど、球場を中心とした街づくりプロジェクトです。

このプロジェクトを行っているのは、2019年に設立された合弁会社「ファイターズ スポーツ&エンターテイメント」。北海道日本ハムファイターズ(以下ファイターズ)、日本ハム、民間都市開発推進機構、電通の4社が出資した合弁会社であり、共同でプロジェクトを進めていくことになりました。

アメリカで定着。野球ファンのみならず、地域の人々に愛されるボールパーク

まず今回のプロジェクトでつくられる「ボールパーク」について説明します。 ボールパークとは、野球場を中心に、その周辺に併設されるホテルやレストラン、エンターテインメント施設などの“空間一帯”を指します。米メジャーリーグのスタジアムに多く見られる概念で、球場周辺エリアとの連携や街づくりについても考えていきます。

こういったボールパークを北海道につくろうと考えたのがファイターズです。野球ファンだけでなく、野球に興味がない人も楽しめるのがこの空間の特徴。人口減少や地方の過疎化が深刻になる中、球団が地域と一体になり、Fビレッジを野球ファンの枠を超えて地元の人々に親しまれる存在、誇れる存在にしていきたいという思いがありました。

「共同創造空間」に必要な、多くのパートナーをつなぐ役割を私たちが担う

Fビレッジの構想が持ち上がると、私たち電通もプロジェクトに関わることとなりました。というのも、ファイターズはこのプロジェクトの推進指針を「共同創造空間」と位置付け、さまざまな企業や自治体と“一緒に空間を創る”方針を定めたからです。ファイターズにとって街づくりは初めての事業。そこで、企業や自治体など、さまざまなパートナーと協業することを考えたのです。

とはいえ、たくさんのパートナーが参加するからこそ、そのパートナーをつなぐ存在が不可欠です。加えて、パートナーが多くなればなるほど、みんなが同じ方向を向き協業するのは容易ではなくなります。そこで、電通の持つネットワークや企画・調整力に期待していただき、このプロジェクトに参画することになったのです。

スポーツ中心の街づくりで、教育や老後の課題にもアプローチ

私たちも、Fビレッジには大きな意義を感じました。街づくりという壮大なプロジェクトに関われることはもちろん、その中心にスポーツがあることは「可能性に満ちあふれている」と感じたからです。たとえばスポーツ教育によって地域の子どもたちにも発信できるかもしれませんし、シニアの方の気分転換にスポーツを活用できるかもしれません。新しいスタジアムやスポーツ観戦のあり方だけでなく、新しい街づくりのあり方も追求できると感じたのです。

また、スポーツビジネスもここ数年で大きく変化しています。放送権に代表される各種権利料は高騰し、海外の大手配信メディアも日本でシェアを拡大しました。そうした中で、スポンサーシップや放送権を軸とした従来型のスポーツビジネスとは異なる、新しいビジネスモデルを構築するための一歩を踏み出すことが重要でした。

時間をかけて描いた街のイラスト。目指す街の姿の一目化(ひとめか)の理由

こうして4社の合弁会社が立ち上がり、Fビレッジのプロジェクトが始まりました。一緒に街づくりをするパートナーが増え、どんな空間を目指すか考える中で、私たちが行ったのは、つくりたい街を1枚の絵(フューチャービジョン)で表現すること。それにより、このプロジェクトで目指す街の姿を「一目化」することでした。

このプロジェクトは多くの人が関わっているからこそ、それぞれが「こんな街にしたい」という強い思いを持っています。それをすべてかなえようとすれば、結果的にバラバラな街になってしまいます。

街としての一体感を出すには、「こういう街を目指そう」という共通イメージをパートナー全員で共有することが大切です。かといって、たくさんの言葉でそれを説明しても、言葉から思い浮かべるイメージは人それぞれで、差が出てしまいます。そこで1枚のイラストにしたのです。

このイラストは、決して幻影ではありません。パートナーとワークショップで議論を交わしながら、あくまで現実的にできそうなこと、技術的に可能だと考えられることをイラスト化しました。

ビジョンを明確にすべく、このボールパークでつくりたい「体験」も一言化(ひとことか)

さらに、Fビレッジで目指す「エリアビジョン」を制定。この場所で目指すことを一言で表現する「一言化(ひとことか)」にも取り組みました。

ボールパークをつくる上で、パートナーと、“この場所で人々にどんな体験をしていただきたいか”というカスタマーエクスペリエンスを共有することが重要です。それをFビレッジというエリアが提供するビジョンとして一言で表そうと考えました。

長い議論の末、エリアビジョンは「PLAY HUMAN.(プレイ・ヒューマン)」に決定。ファイターズやパートナーの思いをくみ、このボールパークは「人が人らしくなれる場所」を目指そうと考えました。

心の底からファイターズを応援するのはもちろん、野球ファンではない人もこの場所で楽しい体験をする、友人と語らうなど、生きていることの喜びや明日への活力を養うことができる、世界で一番Well-Beingな場所にしようと思ったのです。

人材獲得のために作ったのは、北海道移住の良さを伝えるプレゼン資料?

こうしてFビレッジの方向性が決まり、実際にプロジェクトが動き出すと、次の課題も見えてきました。人材の獲得です。

これだけの大きな計画ですから、ファイターズ側で事業に携わる人材がもっと必要になります。そこで求人募集をすることになったのですが、従来の球団経営とは大きく異なる仕事になるため、スポーツの領域を超えたさまざまなジャンルから募集したいという思いがファイターズ側にありました。

そこで、他領域の人材にリーチできる求人企画を考え始めました。とともに、この求人における“大きなハードル”の解消も必要だと感じました。大きなハードルとは、転職する際は「北海道に移住すること」です。たとえこの職に興味を持っても、家族に北海道への移住を認めてもらえないといったこともあり得る。そこを解消することがポイントだと考えたのです。

その課題を解決するために考案したのが、「ご家族円満転職サポートテンプレート」でした。

これは簡単にいえば、求職者が、北海道へ転職・移住するにあたって“ご家族を説得する”ツール。プレゼンで使う資料のように、一枚一枚で、このプロジェクトの魅力や北海道に住む楽しさを伝えていきました。

スポーツビジネスの可能性を真面目に伝える部分もあれば、北海道に住むメリットを大げさかつコミカルに伝える箇所も作りました。そして、この少し変わった求人企画が注目を浴びることで、当初の狙いである「スポーツの領域を超えた人々へのリーチ」も達成できればと考えたのです。

この求人はSNSを中心に話題となり、延べ5000人以上から応募が来ることに。全国ネットのワイドショーで取り上げられたことも含め、話題化したことで、幅広い領域の方から応募が来るという目的も達成することができました。
当初3人の採用枠でしたが、8人採用することになりました。

サウナに入りながら試合観戦できる席も。Fビレッジプロジェクトのこれから

2023年3月のFビレッジ開業に向け、開発は順調に進んでいます。現時点で計画されているのは、球場の中に客室を設け、宿泊しながら試合観戦できる仕組みや、地下からくみ上げた温泉やサウナに入りながら野球観戦ができる施設など。既成概念から脱却し、多様な観戦スタイルを体験していただける環境を準備しています。

先日、センターバックスクリーンでのクラフトビール醸造レストランも発表されました。世界初となるフィールドが一望できるブルワリーレストランで、その名は「そらとしば by よなよなエール」。コンセプトやネーミング、ロゴ作成には、電通も携わっています。球場の外には、認定こども園や居住施設(レジデンス、シニアレジデンス)、農業学習施設ほか、アウトドアアクティビティが可能な施設などもさまざま計画されています。2023年の開業で完成ではなく、その後も街づくりは続いていきます。

このプロジェクトは、目の前にある明確な課題を解決するだけでなく、新しい未来をゼロからつくり上げるもの。いうならば、「課題解決型」ではなく「未来創造型」のプランニングです。

しかもテーマは街づくり。FビレッジとしてもSDGsの「4:質の高い教育」「11:持続可能なまちづくり」「17:パートナーシップ」をはじめとする取り組みに注力していますが、人々の暮らしに刺激と潤いを与えることで北広島市を中心とした北海道全体へのソーシャルインパクトをもたらすなど、電通が掲げているIntegrated Growth Partner(インテグレーテッド・グロース・パートナー)としての価値創出がこのプロジェクトでは期待されています。

クリエイティビティーやネットワーク力といったコアバリューを持つ電通だからこそ実現できる形で、北海道の未来に貢献していきたいと思います。

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北海道ボールパークFビレッジ

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担当者:電通 国際スポーツ室 国際スポーツ1部 倉田亮