JRグループ6社共同(JR北海道、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR四国、JR九州)の鉄道開業150年キャンペーン「MY JAPAN RAILWAY」は、カンヌライオンズ、ADFEST、Spikes Asia、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSをはじめ、主要な広告賞を多数獲得し、国内外で高い評価を受けました。
本記事では、「MY JAPAN RAILWAY」について、その誕生の経緯や制作チームの想いなども含めてご紹介します。
デジタル版スタンプ
「MY JAPAN RAILWAY」とは

「MY JAPAN RAILWAY」は、JRグループ6社(JR北海道、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR四国、JR九州)の「鉄道開業150年」の一環として実施された、ウェブアプリを活用したキャンペーンです。鉄道の開業150年を機に、今一度移動の喜びや鉄道への愛着を増幅させることを目的に、ユーザーとの関係を深めるブランド体験でありながら、鉄道利用を促進する仕組みを目指しました。
JRグループ6社の対象駅にGPSが設置されており、スマホの位置情報をオンにした状態で駅の範囲内に入ると、ウェブアプリでその駅のデジタル版スタンプを押すことができます。デジタルでありながら、昔ながらのアナログの駅スタンプのように押し方によってかすれ具合が変わり、押した日時や何番目に押したかも記録されます。駅スタンプの他に、特急スタンプや新幹線スタンプなどもあります。また、今は駅ではないが昔は駅だったところにもピンが立っており、そこで記念のスタンプがもらえたり、毎日ログインすると、駅で働く人へのリスペクトを込めたお仕事スタンプももらえたりします。

スタンプのデザインはJR各社の駅舎や駅周辺の魅力的な観光スポットなど、鉄道の歴史を感じることのできるものになっており、現在では、スタンプは全1063種類+お仕事スタンプ50個+季節違いのスタンプ18個が公開されています。サービス開始から約2年6か月で延べ180万人を超えるユーザーに利用されています。
コロナ禍だからこそ生まれた
「優しいデジタル」のアイデア
「MY JAPAN RAILWAY」が生まれたきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大。
鉄道開業150年を迎えた2022年は、ちょうどコロナ禍の時期にあたってしまい、人が多く集まるイベントも、リアルなスタンプラリーも、難しい環境にありました。しかし、デジタル版スタンプであれば、人と接触するリスクを減らして、自分の中だけで完結できます。「デジタル版スタンプ」でいこうと決めて、どういうイメージにしようかと考えたなかで、デジタルだけどあったかい、というイメージに行き着きました。地方の駅に行くと自由に書き込みできるノートが置いてあったりしますが、その“駅を通じて人と人がつながっている感じ”をデジタルで実現できたらいいなと考えました。つながっている安心感みたいなことが、今の時代にも求められている・・・それが「MY JAPAN RAILWAY」のアイデアの起点となっています。
かすれたり、濃くなってしまったり。
アナログなスタンプデザインが
一人ひとりの愛着に
「MY JAPAN RAILWAY」には、10人以上のデザイナーが関わっています。デザインコンセプトとしては、駅というパブリックなものを自分のものにできたら楽しいのではないか、というところから出発し、そのためにはどうしたらいいかと考えた時に、自分の中に保有するためには、「愛着」みたいなものが必要ではないかと考えました。まずはデザインに先立って、デザイナーが自分の担当の駅を一つ一つリサーチして、「この駅はこういう歴史があったんだ」「こういう文化が根付いているんだ」ということを知識として頭の中に入れていきました。
実際にデザインしていく時には、リサーチで得た情報からモチーフを決めて作っていくわけですが、パソコン上では何でもできてしまうので、スタンプとしては無味乾燥なものになりがちです。そこで、スタンプ独特のかすれ具合などアナログ的な部分でスタンプへの愛着を設計していきました。

スタンプを押した時に「あ、かすれちゃった!」とか「濃くなっちゃった」とか、気持ちが動く瞬間というのは、スタンプが自分のものになる瞬間でもあります。かすれているようにデザインするなど、ディテールにこだわる狙いは、そこにあります。
いろんな人たちの思いが
集約されたスタンプ
このプロジェクトは、JRグループ6社の共同キャンペーンのため、一つ一つのデザインは6社それぞれに提案しました。かなり綿密にリサーチして「これだ!」とモチーフを決めて提案しましたが、JRのみなさまにも、一駅一駅に思い入れがあるので、「このモチーフはちがうんじゃないか」などとご意見をいただき、何度かやりとりすることもありました。JRで働くみなさまの駅への思い入れはもちろんですが、駅周辺の自治体や施設のみなさんの気持ちや意向もJRのみなさまが丁寧にすくい取ってくださいました。そのため、「MY JAPAN RAILWAY」のスタンプは、本当にいろんな人たちの思いが集約されたスタンプになっています。

海外アワードを席巻。
海外に日本の魅力を届ける機会に。
「MY JAPAN RAILWAY」は、「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル 2023」にて、インダストリー・クラフト部門のグランプリを獲得しました。2024年にはD&AD のアートディレクション部門でブラックペンシルを受賞、One ShowやClio、LIAなど数多くの国際賞でのグランプリをはじめ、70以上の賞を受賞するに至りました。さらに、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS やADC賞なども受賞し、国内外から高い評価をいただいています。(※2024年9月時点)
審査員からは、デザイン性だけでなく、「ブランドのロマンを高めている」「日常のルーティンをエキサイティングな体験に変えた」「日本の歴史や文化全てが詰まっている」といったコメントをいただきました。

制作チームはこのキャンペーンにおいて、「日本のインフラをもう一回デザインする」というテーマも掲げていました。海外のアワードを受賞することで、日本の魅力を海外に届けるよい機会にもなったことに喜びを感じています。
さらに、数々の海外賞で評価されたことを受けて、鉄道という社会インフラを提供する企業がやるべきこと、未来にどうなっていたいかということを、説明的にではなく、アナログとデジタルの掛け算により感覚的・感情的に訴えているところを評価されたのではないかと、制作チームは結果を受け止めています。

サービスが開始した2022年4月から、2024年10月現在までの、2年6か月で、アプリの延べユーザー数は、180万人を超え、約1100万回スタンプが押されました。(*押し直しも含む)国内外からポジティブな反響があり、その結果、期間を1年間と想定していた周年キャンペーンが3年目に突入しました。
この活動は、単なるブランディングにとどまらず、移動促進に直結する仕組みを作ることができた事例であり、その結果、エリアや会社の垣根を越えて、利益も高めあえるかつてないプロモーションとなりました。
今後の予定は未定ですが、今回作ったしくみは単なるウェブアプリを超え、プラットフォームとなりつつあります。
日本中に駅は9000以上。まだまだプロジェクトを続けられたらうれしいですし、日本以外にもスタンプをつくり、日本と海外を見えないレールで繋ぎたい、とプロジェクトチームは今も夢見ています。