原寸大の生き物たちがニュースの隙間からこちらを見ている・・・沖縄セルラー電話の広告「わたしたちが、絶滅危惧種になるまえに。」。
沖縄タイムスと琉球新報の2紙をジャックした、前代未聞のこの広告プロジェクトは、大きな反響を呼びました。今回はこの新聞広告の背景にある、広告主および新聞2紙の3社の思いと制作秘話をご紹介します。

世界有数のホットスポット、沖縄

動植物の種の多様性が高く、絶滅危惧種の集中する地域は「ホットスポット」と呼ばれています。日本は、国土全体が生物多様性のホットスポットに指定されていますが、なかでも、沖縄は世界有数のホットスポットとして知られています。沖縄県の文化・生活様式は、その独特な環境がベースとなっていますが、2010年ごろから現在にかけて生物多様性の回復が頭打ちとなっており、近年では古来の動植物も絶滅危惧種となってしまうものが増えています。沖縄にとって自然の豊かさを保全することは、喫緊の課題となっているのです。

そんな中、生物多様性・生態系関連のソリューションを提供する琉球大学発のスタートアップ企業「シンク・ネイチャー」は、2023年に沖縄の生物多様性情報が見えるアプリ「DugongsAI(ジュゴンズアイ)」を開発しました。生物多様性のビックデータとAIによって、ジュゴンが生息する海域や、様々な生物分類群ごとにその種類の数が豊かな場所を地図上で見ることができるアプリです。沖縄の自然を守っていくためには、まず、多くの人たちが生物多様性の価値を理解する必要がある、という考えから開発されました。

その開発に協賛した企業が、今回紹介する広告の広告主である、沖縄セルラー電話です。
沖縄セルラー電話は、1991年に沖縄県民のための通信会社として設立され、沖縄の人々と様々な企業に支えられてきた企業です。
そんな沖縄セルラー電話は、地域の自然を守る活動も積極的に行っています。
「生物多様性は、すべての人類にとって未来の財産であり、経済活動においても源泉である」という信念のもと、沖縄の生物多様性の損失を食い止め、未来の子どもたちにつないでいくための活動です。2023年6月には、シンク・ネイチャーと、沖縄のネイチャー・ポジティブの実現を目指して、連携協定を締結しました。

沖縄セルラー電話は、アプリ「ジュゴンズアイ」の存在を知ってもらうだけでなく、豊かな自然が当たり前になっている県民や世界の人々に、それが貴重な財産であることに改めて気付いてもらいたいと考えました。そしてこの宝を守り続けていくことの必要性を感じてもらいたいという想いから、広告制作のプロジェクトがスタートしたのです。

思いがまっすぐに正しく伝わるように。

沖縄の自然を守っていくための第一歩として、まずは沖縄の自然の豊かさを伝えよう、と考えました。その上で、「生物多様性はすべての人類にとって未来の財産であり、経済活動においても源泉である。」というメッセージを乗せるためにはどのようにすればいいのか。はっとする驚きとともに、シンプルにわかりやすく伝えられる表現はないか・・・。様々なアイデアを検討してたどり着いたのは、いつも見ている記事の隙間から、原寸大の沖縄に生息する動植物がこちらを見て訴えかけてくる、というクリエイティブでした。
今日のニュースよりも大事なことがある、というメッセージを際立たせるために、新聞というメディアにもこだわりました。沖縄の県紙である、沖縄タイムスと琉球新報の両紙を同日にジャックすれば大きなインパクトも出ます。琉球新報は「陸」、そして沖縄タイムスは「海」をテーマとした動植物を掲載することにしました。
しかし、変わった形の広告を出そうとすると新聞の記事を削らないといけなかったり、記事の文字数も変わってしまったりします。この前代未聞のプロジェクトは、両紙の多くの方々の理解と協力をいただき、実現することができたのです。

琉球新報に掲載された陸の生物
沖縄タイムスに掲載された海の生物

わたしたちが、絶滅危惧種になるまえに。

この新聞に隠れている生き物のように、
沖縄には、世界でも特に地域固有の希少な生き物がたくさんいます。
その理由は、長い長い地球の歴史の中、熱帯と温帯の気候が移り変わる場所で、
生き物たちが移動と定着を繰り返し、この島々で独自の進化をしたから。

人間もふくめて多種多様な生命が、よりそって暮らす生物多様性ホットスポット。
それを受け継いできたから。

私たちの「豊かさ」って何だろう。
経済的な富、つまり、お金?
でも、それを生み出す大元は、自然。
水、食べ物、着る物、家や車を作る材料は、すべて自然から。

沖縄にあって”あたりまえ”の生物多様性は、暮らしを支える自然資本。

未来もずっと生きていく上でも、沖縄の暮らしをもっと豊かにするためにも、
生物多様性は私たちがほこる財産になる。
この価値を伝え、残していくために。
沖縄セルラーは、
シンク・ネイチャーが開発した
沖縄各地の生物多様性が“見える”アプリ「ジュゴンズアイ」の
開発と活動を支援しています。

新聞というメディアならではの反響

沖縄セルラー電話の新聞広告は、そのビジュアルのインパクトから、普段新聞に触れない若年層まで広がり、多くの県民が沖縄の絶滅危惧種を含む動植物に出会うきっかけとなりました。また、新聞だけでなく、「沖縄タイムス」と「琉球新報」のSNSで新聞広告を紹介する投稿を行ったところ、感想コメントとともに引用投稿されるなど、SNS上でも反響があり、沖縄県民以外の人々にも広告を知ってもらうことができました。

さらに、新聞という手に取ることのできるフィジカルなメディアを用いたことで、学校の授業など、教育に活用したいというお問い合わせも数多くいただきました。

広告作品としては、日本新聞協会広告主部門 新聞広告賞や、第77回 広告電通賞 プリント広告 新聞シリーズ部門 銀賞、ADC 2024 ADC賞をはじめ、数々の広告賞を受賞しました。生物多様性への警鐘というテーマに対して、デジタルにはない新聞の強みである「物理的な紙面の大きさ」を最大限に活かした構成を企画し、高いクラフト力で表現した点が評価されました。

広告の力で、これからも。

この制作を通じて得た想いは今もスタッフ一人ひとりの中で育まれ、今後の広告制作に対する新たな情熱と決意を強くしています。クリエイティブディレクターの野崎は、「沖縄セルラー電話がもっている沖縄の生物多様性を未来へつなげたいという想いを、何倍にも広げられるようなアイデアを生み出したい。これからも、できるだけ多くの人に正しく伝わるクリエイティブを追求していきたい」と語ります。また、アートディレクターの江波戸は、「今回の広告制作を通じて、沖縄の自然を本気で守りたいと願う人々の力になれるデザインをしたい」と熱い想いを持っています。さらに、電通沖縄の大見は、「地元の企業や人々に支えられ、県民に愛されてきた沖縄セルラー電話の想いを共有し、これからも共に歩んでいきたい」と語りました。

今回の新聞広告は、沖縄セルラー電話と沖縄の新聞社2社が共通の想いを持ち寄り、実現したものです。この広告が沖縄の生物多様性についてより多くの人々に伝わり、自然を守るための一歩となることを願っています。これからも、広告を通じて生物多様性のメッセージを広く届け、多くの人々の心に響くクリエイティブを目指していきます。