背景

(1)日本経済は、新型コロナの影響を受けつつも、回復傾向へ

2021年の日本経済は、コロナ禍に左右されつつも、個人消費や民間企業の設備投資などに支えられ、マクロ経済としてはゆるやかに回復傾向となった。暦年の国内総生産(GDP)の実質成長率は1.7%。さらに四半期別を前期比ベースでみると、1-3月期は-0.5%だったものの、4-6月期は0.6%と小幅増加し、7-9月期に再び-0.7%とマイナス成長となった。緊急事態宣言解除後の10-12月期は1.3%と持ち直した。「日本の広告費」との相関の高い名目成長率も、0.8%の増加となった。(2022年2月15日四半期別GDP1次速報より)

企業業績、増収増益

上場企業の2021年度通期(2021年4月-2022年3月期)は、全産業売上高が前期比7.4%増、最終利益が48.3%増の見通し。

雇用情勢は回復傾向

前年悪化した雇用情勢は業種によっては継続するものの、完全失業者数は5月の211万人をピークに減少し12月には171万人と前年同月に比べ23万人の減少になった。2021年の年平均完全失業率は2.8%と前年と同率。2021年平均の有効求人倍率は1.13倍で前年比0.05ポイント低下した。

円安傾向、株価は高値水準、原油高へ

円相場は、 米国の景気回復を受けた金融緩和の縮小による長期金利の上昇に対して、超低金利を維持する日本の金融政策を受け、金利がつかない円を売ってドルを買う動きが活発化し、最終日(12月30日)は前年より約12円安の115円12銭で取引終了した。
株価は、9月に現職総裁が総裁選の告示直前に出馬を断念し、新政権による経済対策への期待が高まったことをきっかけに3万円台まで急伸、11月終わりに新型コロナの新たな変異株「オミクロン株」への警戒感などから一気に値を下げたものの、最終日(12月30日)の終値は2万8,791円と、1989年以来、32年ぶりの高値水準となった。
原油価格は、新型コロナワクチン接種の進んだ欧米を中心に景気回復が進み石油の需要が増加したことや、原油価格の先高感を見込んだ投機資金の流入などが要因し原油価格が高騰、国内レギュラーガソリン(1リッターあたり)の店頭価格は、1月の130円台半ばから11月には170円台が見える水準へと上昇。日米が協調して石油の国家備蓄の一部を放出し上昇は収まったものの、165円前後の高値が継続した。

(2)国内消費~巣ごもり・在宅需要は増加したものの、旅行、飲食などは厳しさ継続

●百貨店は、2021年も緊急事態宣言などによる外出自粛の影響を受けた。2021年売上高(既存店ベース)百貨店売上高は前年比4.7%増となったものの、2019年比では23.2%減とコロナ以前の3/4程度の水準に留まっている。●コンビニエンスストアも、前年の反動増により全店で前年同期比を約1.1%、 既存店が0.6%上回ったものの、2019年比では全店3.4%減、既存店3.0%減とこちらも完全な回復には至らなかった。●一方、スーパーマーケット(既存店ベース)は、7-9期も緊急事態宣言・まん延防止等重点措置が継続したことにより内食傾向の継続や、衣料品・住環境用品の前年の反動増を受け、2.3%増と2年連続の増加。●白物家電(民生用電気機器)の年間国内出荷金額は、0.6%減と出荷額が前年割れとなるのは6年ぶり。主力のエアコン、電気冷蔵庫などは前年割れとなったが、新築戸建の回復傾向により食器洗い乾燥機や電気洗濯機、内食傾向の継続でトースターや電子レンジなどの調理機器は好調だった。●黒物家電<AV機器(民生用電子機器)>の年間国内出荷金額は薄型テレビ50型以上(特に有機ELタイプ)の売れ行きがよかったものの、全体的に東京2020オリンピック・パラリンピック開催以降失速し、1.1%減となった。●国内新車販売は、年間販売台数が3.3%減の444万8,340台と東日本大震災が発生した2011年(15.1%減、約421万台)以来、450万台を割りこんだ。8月までは昨年を上回る販売台数となっていたものの、9月以降も、半導体不足や部品調達難などの影響で新車供給が滞り大きく失速。一方、ドライブレコーダーの年間国内出荷台数は16.3%増、カーAVメインユニットやETC機器など周辺産業の活況も促しており、早期の生産能力回復に期待が寄せられる。●携帯電話端末の年間国内出荷台数は、5.2%増の1,374.0万台(うちスマートフォンは同6.3%増の1,041.3万台)。パソコンの2021年度上期(4-9月期)の国内出荷台数は、前年度「GIGAスクール」特需や、コロナ禍での在宅勤務需要の反動減が大きく影響し、前年同期比25.6%と大幅減少の591.4万台。タブレットの上期国内出荷台数も前年同期比12.8%減少の403万台に留まった。●デジタルカメラの年間国内出荷金額は、一体型とレンズ交換式合計で4.8%減。●住宅着工戸数は、前年同期比5.0%増と5年ぶりに増加。持家、貸家、分譲と、いずれも増加となった。●マンションの年間発売戸数も首都圏が前年比23.5%増、近畿圏が24.7%増となった。なお、首都圏のマンション1戸あたりの平均価格は2.9%上昇の6,260万円と前年に引き続き最高値を更新した。●旅行業界は、国内旅行消費額が4-6月期は前年同期比84.7%増となったが、7-9月期に新型コロナの影響で20.4%減とマイナスに転じた。また、訪日外客数は東京2020オリンピック・パラリンピックを開催した7-8月にやや増加したものの、2019年比では99.2%減。出国日本人数も2019年比で97.4%減と深刻な状況が継続。●映画業界は、TVアニメ版から劇場版シリーズを経て25年間にもわたるシリーズ最終章の映画をはじめとして、コミック原作の実写化などが40億円超えのヒット作が見られた。●テーマパークも厳しい業績予想ながら、徐々に人数制限の緩和が進んできている。●外食業界は、年間売上高(全店ベース)は前年比1.6%減、2019年比では16.8%減と前年に引き続き厳しい状況。ファミリーレストラン、ディナーレストランなどは苦戦が続いており、特に「パブ/居酒屋」は57.8%減。一方、ファストフードはテイクアウト・デリバリーの下支えにより好調を維持した。

(3)話題のイベントや商品など

2021年は、8月頃まで新型コロナの影響が大きく予断を許さない状況だった。しかし、9月以降、徐々に経済活動の活性化も期待できるようになった。前年に引き続き、巣ごもり・在宅消費にまつわる商品やサービスでプラスアルファの価値を求める意識が強まり、様々なヒット商品が生み出された。
住生活においては、進化の続く「衛生用品」にヒットが相次いだ。コロナ禍において欠かせないアイテムである機能性マスクでは、長時間つける際の快適性・ファッション性を両立した「くちばし型」が人気となった。また、室内の空気対策として、換気と加湿機能を兼ね備えたものや一般的な超音波式よりも加湿速度が高く雑菌を放出しにくい商品も注目を集めた。
壊滅的な打撃を受けたビジネススーツ小売り各社の仕掛けたテレワークスーツやノイズキャンセリング機能を有する完全ワイヤレスイヤホンなどが、長引く在宅勤務の対応商品として快適かつ健康に過ごす巣ごもり・在宅需要の取り込みに成功。
食品でも、「味」に加えて「健康」「時短」「楽しさ」「目新しさ」など付加価値をプラスした商品が注目を集めた。1食で1日に必要な栄養素の1/3を摂取できる完全食や前年より市場が拡大し続けている“米化”と呼ばれる「オートミール」の新しい食べ方が流行し、家庭での消費拡大やメーカーの商品展開を促した。ここ数年のトレンドでもある「時短」では、手軽に餃子を作ることができる商品や下処理・解凍不要の冷凍魚加工品、大根おろしを作る手間を解消したチューブ型商品などが注目を集めた。味変・ごちそう感など「楽しさ」の演出を感じられる商品としては、家庭の食事で使用することで味を劇的に変えられる万能調味料などが売上を伸ばした。
飲料では、初の糖質ゼロを実現したビールや各社が手掛けるノンアルコールチューハイの売上が順調に増加した。「目新しさ」を感じられる商品として、飲料では広口の蓋を開けると泡が自然に発生し、ビールを飲食店のように楽しめる商品なども注目された。さらに、あるべき未来の消費活動として「SDGs」を意識したサステナブル商品も複数、話題となるアイテムがみられた。2018年に業界に先駆けて発売したラベルレス飲料水が、徐々に商品カテゴリ、販売チャネル共に拡大。プラスチックをほぼ使用せず、携帯性に優れた紙と金属で作られたカミソリは、発売開始3日で予定販売数を完売、注目を集めた。
SNSでは、短尺動画投稿アプリがマーケティングプラットフォームとしての地位を確立。流行の動画内に用いられた商品の購買意向を促進し、消費行動を喚起しやすい性質を持っていると言われており、デジタルネイティブかつ環境意識が高いといわれる「Z世代(1990年後半~2000年代に生まれた人、物心ついた頃からすでにライフスタイルの中心にデジタル技術があり、インターネットの世界に慣れ親しんでいる世代)」の関与が強くみられた点も、2021年の特徴であったと考えられる。